介護職に対してどのような印象がありますか?
2022年「HELPMAN JAPAN」が調査した介護未経験者・介護事業者に対する意識調査では、介護業界への就業をためらう理由の第3位に「給与水準が低めの業界だと思う」という項目がランクインしています。そのようなイメージを払拭するため、また給与水準を上げる・働く環境を良くするための取り組みについて、ニュース等で目にしたことのあるのではないでしょうか。
これから先、介護職の給与は上がっていくのか、今からでも上げるために何ができるのかをご紹介いたします。
- 介護職の給与は安いのか
- 介護職の給与がアップする予定があるのか
- 介護職に就職したいと考えている方
- 介護職に従事していて給与アップをしたい方
給与相場は高い?安い?
平均給与額(総額)は、31万7千円
厚労省の調査によると、令和4年9月時点での介護職の平均給与は317,540円となっています。
この金額は介護職員処遇改善支援補助金を取得している事業所における平均であり、更に介護職員等ベースアップ等支援加算を取得している事業所における平均月給は318,230円となります。
一見して月給は低くないように感じるかもしれませんが、この金額には職務手当、処遇改善手当、通勤手当、家族手当などが含まれるほか、時間外手当(早朝・深夜・休日手当等)も含まれています。基本給だけで見るならば 186,190円~186,840円 となっており、各種手当を含めた場合の基本給の平均は 240,790円 です。
令和5年賃金構造基本統計調査(速報)によれば、一般労働者の平均月給は299,944円となります。
この点から見れば、介護職の平均月給は全職種の月収よりも高いと言えます。
しかし、各種手当や時間外手当も含めた際の金額で上回っていることを鑑みると、日勤だけの介護職や時間外労働の無い勤務者の場合は、平均月給以下の給与となっている可能性が高いと言えるでしょう。また、介護職員処遇改善支援補助金や介護職員等ベースアップ等支援加算を取得していない場合は、一般労働者の平均給与額より低くなることは明らかでしょう。
介護職の給与について詳しく知りたい方は下記の記事をご覧ください。
どうして給与が安いのか
介護職の給与が安いまま、給与アップしない理由は大きく6つあります。
- 介護保険制度による制限がある
- 人件費率が高い
- 専門性の重要性が評価されていない
- 介護職に対する需要がある
- 非正規職員の割合が高い
- 内部保留額が高い
介護保険制度による制限がある
介護職の給与は介護報酬の中から支払われます。介護報酬は国によって金額が定められています。
そのため、勤め先の事業所がどのようなサービスをしても、基本的な介護報酬自体は国の改定が入らない限り変わりません。
企業努力で給与アップを行うには、利用者による介護保険外サービスの利用で収益をあげたり、諸経費に無駄がないか見直したりする必要があります。
そのため、介護職の給与を大幅に上げるには国の方針も大きく関わってくると言えます。
人件費率が高い
介護職は人件費率の高い職種です。全体の収入に対する給与費割合が、平均で64.5%となっています。
最も高いサービスは居宅介護支援サービスで83.6%、次いで夜間対応型訪問介護の82.8%となっています。
人件費率が高いということは経営を圧迫しているといえ、経営側としては安易な給与アップを行いづらいと言えるかもしれません。
では、顧客である利用者の人数や利用率を増やせば、収入が増えるのではないか?と思う方もいるかもしれません。
しかし、介護施設では安定したサービスの提供のため利用者一人あたりの介護職員配置人数が定められていたり、介護支援専門員が担当できる利用者の人数が定められていたりと決まりがあります。仮に利用者数も職員も増えたとしても、総合的な業務量としては変わらなかったり、むしろ一時的に業務量が増えるという状況も発生しやすいと言えます。
「介護職の給与が安い」と感じる人の中には、業務量は負担に見合った金額ではないと感じて「安い」と言う人もいることでしょう。
専門性の重要性が評価されていない
介護職は専門性の高い仕事です。国家資格である介護福祉士資格も制定されており、介護福祉士を目指すためのキャリアプランの提示もあります。
介護職としての入り口となる資格の取得でも、130時間のカリキュラムの受講と認定試験の修了が必要です。
勉強面でも高校福祉科があったり、専門学校や大学の福祉科専攻があったりと非常に専門性が高く、一定の知識が必要な職種です。
しかしながら、長らく無資格・未経験の方でもすぐに就業できる職種であったことも事実であり、資格取得や勉学の重要性の浸透に時間を要しています。
それらが給与を安く設定される原因のひとつとなっています。
介護職の仕事は安定している
どのような景気状況であっても介護を必要とする人は必ずいます。
つまり仕事として世の中からなくなることは、ないに等しいということです。
また介護職員の給与は一部が介護報酬から支払われています。介護報酬の財源は保険料と公費となっているため、安定した給与が支払われる仕組みとなります。
とはいえ、介護職は有効求人倍率が3.6倍と非常に高く、多くの企業が人材を求めている事実があります。
求人に掲載する賃金についても横並びとなることもあり、先の理由から積極的な賃上げを行う企業が少ない可能性もあるでしょう。
非正規職員の割合が高い
介護施設で就業する職種の中で、特に介護職は非正規職員の割合が高いです。
非正規職員は正規職員よりも労働時間が短かったり、昇給機会が少なかったりします。
介護職全体として正規職員・非正規職員の給与金額の平均を算出すると、必然的に平均給与額が下がることになるため、給与が上がらないイメージが強いひとつの要因となっている可能性があります。
内部留保額がある
内部留保とは経営の安定化に向けて利益を事業所内に留めておく資金のことです。介護報酬に制限があることから、急な支出に備えて内部留保を多く貯めている介護施設が多くなっていました。
そのような状況が2011年頃に注目され、社会福祉充実計画が義務付けられ、社会福祉充実財産の使用用途を見える化するとともに、原則5年間でその全額を活用することとなっています。
活用の用途としては、職員の処遇改善であったり、地域公益事業、介護人材の養成事業など様々です。
10年ほど前までと比較すると内部留保金がため込まれたままという状況ではなくなりましたが、その金額の全てが職員の給与アップなどといった処遇改善にあてられるかというと、そうともいえないのが現状のようです。
令和に入って介護の給与は上がった?
上記のような待遇環境のなかで実績はどうなのかを見ていきましょう。
特定処遇改善加算について
令和元年に創設された加算です。経験・技能のある介護職員(勤続10年以上)、その他の介護職員(勤続10年未満)、その他の職種を対象として月額8万円相当の処遇改善を行うというものです。
この加算は介護福祉士の配置割合によって算定されますが、分配をする先は経験のある介護職以外も含まれるため、実際にひとりあたり8万円給与アップしたとは言えず、加算申請をしている事業所ごとにばらつきが見られているようです。
ベースアップ加算について
令和4年に福祉・介護職員処遇改善臨時特例交付金として交付されていたものが、継続して支給されるようベースアップ加算へと移行されることになりました。
これによって月額9千円相当の賃上げとなります。こちらも事業所の判断によって他の職員の処遇改善としてベースアップ加算の収入を分配できるというものです。
そのため「介護職員等特定処遇改善加算」と同様、9千円より低い金額の賃上げとなる場合もあるようです。
政府の対応は満足のいくものか
令和6年度介護報酬改定は介護職の給与に影響を与える内容もありました。
特に重要な点を2点、解説していきましょう。
処遇改善の動き
介護職員の処遇改善が令和6年度に2.5%、令和7年度に2.0%のベースアップとなるよう、加算率の引き上げを行うことが告知されました。引上げに関わる内容として、これまであった介護職員処遇改善加算、介護職員等特定処遇改善加算、介護職員等ベースアップ等支援加算という3つの加算が、各加算や区分の要件を組み合わせた「介護職員等処遇改善加算」へ一本化されます。介護職員等処遇改善加算は4段階の評価となり、事業所ごとに加算の申請を行います。加算額については、介護職のみではなく他職種にも柔軟な配分が認められていますが、主に月額賃金の改善と職場環境要件の見直しに使用するよう決められています。直近で給与額が大幅に上がるというわけではありませんが、改定後の加算と分配によっては現状の給与額のベースアップに繋がる可能性も充分にあるでしょう。
介護報酬改定の方針
介護報酬の改定率は全体として1.59%引き上げとなりました。
引き上げの内訳として、0.98%が介護職員の処遇改善を目的とし、0.61%が介護職員以外の処遇改善を目的としたものとなっています。
一見して給与アップが見込めるように感じるかもしれませんが、介護報酬が引き下げとなったサービスもありました。
- 訪問介護
- 定期巡回
- 随時対応型訪問介護看護
- 夜間対応型訪問介護
- 介護予防リハビリステーション
介護職員の給与は介護報酬の一部から支払われています。
そのため介護報酬が引き下げられると、介護職員の給与を維持・アップさせるためには介護報酬以外の財源から支払いを行う必要がでてくる可能性があるでしょう。厚労省としては、処遇改善のベースアップを行う方針であるため、そちらを利用することで充分カバーが可能と判断しているようです。
介護職の給与はこれからもアップする?
今後の想定
介護職の給与は確実にアップしてきています。令和7年度までには現在よりベースが2.0%アップとなることを目標にされています。
これらの給与アップに大きくかかわってくるのが「介護報酬改定」となります。令和6年度の介護報酬改定は確定し、反映に向けてすでに進み始めています。
介護報酬改定は3年ごとに見直されるため、次回大きな更新が入るのは3年後となります。それまでの間に、介護業界の情勢が大きく変動したり、国内全体で景気に変動がおこるなどの状況があれば、臨時的に介護職員の給与に補助金が出る場合もあるでしょう。
少子高齢化の影響
少子高齢化の影響は介護職の給与に大きく影響を与えるものではないでしょう。
介護報酬の支払いの仕組みとして、高齢者が増加したからといって、介護報酬の額が流動的に変化していくものでは無く、介護報酬改定によって制定されるものだからです。
3年後、6年後の介護報酬改定の内容によっては、大きく変化する可能性もあるでしょう。
高齢化が進んでいるなか、あらゆる介護サービスも生まれています。介護報酬以外で事業所が売上げを上げる一つの手段として、利用者へ介護保険外のサービス提供での収入があります。
就業先の施設が営利法人である場合、その企業が売りにしているサービス内容と売上によっては、介護職の給与額へ反映されているものもあるかもしれません。
まとめ
介護職の処遇改善は見直され続けており、令和6年~7年にかけても給与のベースアップが想定されています。
令和6年1月、岸田総理は医療・介護・障害福祉関係の団体と賃上げに関する意見交換を行っており、率先して賃上げを実現していく官民連携の姿勢が欠かせないという指針が示されました。
令和6年度の介護報酬改定により、一部事業所では介護報酬が引き下げになるなどがありましたが、全体としてみれば介護職員やその他就業職種の処遇改善を行うための施策となっていることは確かです。
しかしながら、現場レベルまで細分化してみれば介護職員の人手不足や人件費の負担割合はすぐに解消されるものではなく、利用者が集まらなければ事業の運営や拡大がままならないという問題も発生しています。更に、介護職の給与でみるのであれば、一般就業者の平均月収を大きく超える金額となるのには、まだ時間を要する課題であると言えるでしょう。
お給料について思うところがあるようでしたら、転職を検討してみることも一つの選択肢としてあると思います。
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