「処遇改善手当とは何だろう」「処遇改善手当はどのようなときにもらえるのか」と疑問を持っている介護職の人は多いでしょう。
今回の記事では、処遇改善手当について詳しく解説しています。
自分が処遇改善手当をもらえるか知りたい人は、この記事をぜひ参考にしてください。
- 処遇改善手当とは?
- 処遇改善手当はどんな時に対象になるか?
- 現役の介護職で報酬が上がる可能性があるか知りたい方
- 現役の介護職で報酬に影響がありそうな方
- 介護職への転職をご検討中の方
処遇改善手当とは?
処遇改善手当とは、介護職員の賃金改善と雇用の安定化を目的に設けられた制度です。
この手当は、介護職員の給与に上乗せされて支払われます。
本制度は「介護職員処遇改善交付金」として始まり、その後「介護職員処遇改善加算」となり、2012年に運用が開始されました。
介護サービスの利用料に上乗せして利用者に請求し、発生した利益を事業所で働く介護職員に配分する仕組みです。
賃金向上を実感しにくい介護業界において、処遇改善手当は直接介護職員に届くため、給与アップを実感しやすいでしょう。
また、処遇改善手当を支給する事業所には、職員のキャリアアップや昇給の仕組みを整え、職場環境を改善するなど指定の基準を満たすことが求められます。
参考)
厚生労働省 介護職員の処遇改善
処遇改善手当が生まれた背景
介護職員は、専門性が高く体力を要する一方で、専門性を評価されにくく、労働と給与が見合わないと感じられやすい職業です。
また、利用者の体調や様子に合わせた介護や、看護師やリハビリ職員など介護職以外の職員とのコミュニケーションが求められ、心身に大きな負担をかける傾向があります。
これまで、介護職員の給与の低さや離職率の高さ、介護職に対するイメージの低下などが問題視されてきました。今後、高齢化が進んでいく日本において、介護人材はさらに不足することが予測されます。
そのため、介護人材を確保し雇用の安定化を図ることが重要です。
令和6年6月報酬改定の見直し
介護報酬は3年に1度のサイクルで見直されています。
今までは、以下の3種類に分けた月額加算と、職種間配分ルールがありました。
- 処遇改善加算Ⅰ~Ⅲ
- 特定処遇改善加算Ⅰ・Ⅱ
- ベースアップ等支援加算
令和6年の見直しで、現行の加算をもとにした処遇改善加算の1本化と、職種間配分ルールの緩和によって、加算全体を事業所内で柔軟に配分できるようになりました。
1本化された加算は、福祉・介護職員等処遇改善加算 (以下、新加算)と呼ばれ、Ⅰ〜Ⅳの4つの加算率に区分されます。Ⅰが最も高い加算率です。
また、介護職員の人材確保をさらに推し進めるため、令和6年度に2.5%、令和7年度に2.0%のベースアップを目指しています。
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報酬改定の見直しで賃金の分配を改善
以前は、職員の職種や勤続年数などに応じて加算手当の分配が決められていました。
今回の改定では「介護職員への配分を基本とし、特に経験・技能のある職員に重点的に配分するものの、事業所内で柔軟な配分を認める」とされています。
なお、職種間の配分ルールが統一され、現行加算の課題であった職種間での賃金バランスについても、事業所ごとに柔軟な運用ができるようになりました。
介護施設で働く人のために賃金が正しく分配されるようになり、給与の改善が促され、介護職員の生活安定や質の向上が期待されます。
加算率
事業所の収入をベースに、要件に応じて加算を算定します。令和6年度は移行期間となり、令和7年度以降に完全施行される予定です。
加算率は、以下の3種類の要件を鑑みて算定されます。
- キャリアパス要件
- 月額賃金改善要件
- 職場環境等要件
また、算定率はサービス区分で異なります。例えば、訪問介護職員の算定率は、新加算Ⅰで24.5%、新加算Ⅳは14.5%です。
参考)
厚生労働省 介護職員の処遇改善
キャリアパス要件
キャリアパス要件とは、介護職員が将来キャリアアップできるよう、研修体制や職場環境、賃金体系などを整えることです。
キャリアパス要件は5つに分類され、I〜Ⅳについては、書面で整備した根拠規定を全職員へ周知することも、加算要件の1つです。
また、I〜Ⅲの経過措置として、令和6年度中は年度内の対応を誓約することで算定できます。
以下で、キャリアパス要件について解説します。
キャリアパス要件Ⅰ(任用要件・賃金体系)
介護職員の職位や職責、職務内容などの任用要件を定め、それらに応じた賃金体系の整備などを定める要件です。
また、根拠規定を書面で整備し、すべての職員に周知することも要件の1つです。
キャリアパス要件Ⅰは、新加算のすべての区分で要件を満たすことが求められます。
キャリアパス要件Ⅱ(研修の実施等)
介護職員の研修に関わる要件です。職員の資質向上や以下の2項目に関して、具体的な研修計画を策定し、当該計画に係る研修の実施または機会の確保が、算定要件です。
- a)研修機会の提供または技術指導の実施、介護職員の能力評価
- b)資格取得のための支援(勤務シフトの調整、休暇の付与、費用の援助等)
キャリアパス要件ⅡもⅠと同じく、どの加算区分でも要件を満たすことが必須です。
キャリアパス要件Ⅲ(昇給の仕組み)
介護職員について、以下のabcいずれかの仕組みを整備します。
新加算Ⅰ〜Ⅲを算出する際は、キャリアパス要件Ⅲを満たすことが不可欠です。
- a)経験に応じた昇給の仕組み
- b)資格等に応じた昇給の仕組み
- c)一定の基準に基づいた昇給の定期判定の仕組み
キャリアパス要件Ⅳ(改善後の賃金額)
経験や技能のある介護職員のうち1人以上は、改善後の年間賃金額が440万円以上の見込みであることが、算定要件です。
基本的に、経験や技能のある介護職員とは、介護福祉士や社会福祉士などの資格を有し、勤続年数が10年以上である人材です。
加えて、他法人での経験や職員のスキル、担当している業務内容などを踏まえて、各事業所の裁量で裁定できます。
キャリアパス要件Ⅳは、新加算ⅠとⅡの算定に必須の要件です。
令和6年度中の経過措置として、旧特定加算にあたる部分の賃金改善額が月額8万円以上の場合でも算定可能です。
また、加算額全体が少額な小規模事業所や、職員全体の賃金水準が低い事業所では、適用が免除されます。
キャリアパス要件Ⅴ(介護福祉士等の配置)
サービス類型ごとに、介護福祉士のような福祉専門職員を、一定割合以上配置することを求める要件です。キャリアパス要件Ⅴは、新加算Ⅰの算定に要します。
ただし、施設入所支援や短期入所などのサービスについては、該当する加算がないため不要です。
参考)
介護職員の処遇改善|厚生労働省
月額賃金改善要件
月額賃金改善要件は、介護職員の賃金ベースアップを目的として作られた算定要件です。以下で、2種類の要件について解説します。どちらも、新加算Ⅰ〜Ⅳが対象です。
月額賃金改善要件Ⅰ
令和7年度から適用される月額賃金改善要件Ⅰは、新加算Ⅳ相当の加算額2分の1以上を、基本給または決まって毎月支払われる手当の改善に充てることを求める要件です。
金額は処遇改善計画書に必要事項を記入することによって、自動で計算されます。
現在、加算による賃金改善の多くを一時金で行っている事業所は、一時金の一部を基本給や毎月の手当に付け替える対応を求められるケースがあります。その場合、賃金総額は一定のままで大丈夫です。
月額賃金改善要件Ⅱ
新加算への移行に伴い、現行のベースアップ加算相当が新たに増える場合、基本給や毎月の手当額を、新たに増えた加算額の3分の2以上引き上げる必要があります。
現行のベースアップ加算未算定の場合のみ適用され、すでに現行のベースアップ加算を算定済みの事業所は適用外です。
参考)
介護職員の処遇改善|厚生労働省
職場環境等要件
職場環境等要件には、職員の健康管理やICT活用などに関する取組が求められています。
令和6年度では6区分24項目が設定され、必須項目数は、新加算Ⅰ・Ⅱで各区分ごとにそれぞれ1つ以上、Ⅲ・Ⅳは全体で1つ以上取り組むことによって適用されます。
令和7年度には6区分28項目になり、必須項目数も増加予定です。項目には、入職促進や多様な働き方、キャリアアップ支援などが含まれ、より多い項目を満たすことで加算率が上昇する仕組みです。
介護職員にとって働きやすい環境の条件をより多く整えることによって、介護現場で働く人により多くの賃金が分配でき、ポジティブスパイラルを生み出す流れが作れます。
各区分と項目については、以下をご参照ください。
処遇改善手当を受け取る条件は?
処遇改善手当は介護職員のための手当であり、支給対象は正社員や派遣社員、パートなどの雇用形態を含めた、すべての介護職員です。
一方で、以下の条件に当てはまる人は、処遇改善手当を受け取れない可能性があります。
- 処遇改善加算を取得していない事業所の職員
- 処遇改善加算対象外のサービスを提供する施設の職員(訪問看護や居宅介護支援など)
- 利用者を直接介護する機会が少ない職種(事務員や生活相談員など)
支給金額は、事業所の判断に応じて配分が決められます。
そのため、事業所によっては、介護以外の業務に従事する職員の処遇改善に充てられるケースがあります。
まとめ
処遇改善手当は、介護職員の賃金や待遇改善を目的に作られた制度です。令和6年度の経過措置を経て、令和7年度のベースアップや介護人材確保に向けて取り組まれています。
処遇改善手当を受け取るためには、いくつかの要件を満たすことが必要です。
処遇改善手当の改定は、介護職員の賃金改善だけでなく、労働環境改善やキャリアアップにもつながります。
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