介護士として働いている人について説明してほしいと言われたとき、ニュースやドラマのイメージや、学生時代に行ったボランティアのイメージを元に説明する方は多いのではないでしょうか?
自分の近くに介護サービスを利用している方が居ない場合は特に、なんとなくしか分からない職業なのではないでしょうか。
介護士について詳しく知るには「介護労働実態調査」がおすすめです。
この記事では介護労働実態調査を解説しながら、介護の仕事と働く人についての実態と介護の魅力についてお伝えしていきます。
- 介護労働実態調査について
- 介護士がどんな仕事か
- 介護士として働く人の実態が知りたい
- 介護業界の現状が知りたい
介護労働実態調査とは
介護事業所における介護労働や雇用の実態、就業意識等を明らかにするために行われている調査です。
調査を行うことで優れた人材の確保と育成、働く環境の改善、より質の高い介護サービス提供等が行えるよう参考にするための指標の一つとなります。
調査は公益財団法人介護労働安定センターによって介護事業所や介護労働者を対象に、詳細なアンケートにて実施されています。
最新の情報は令和4年度のものとなっています。
基本的な調査のほか、年度によってハラスメント調査やコロナウイルス感染症における実態調査等も実施されています。
注目すべきポイント
介護士として働くうえで注目するポイントを抜粋しました。
私がキャリアアドバイザーとして勤務していたときに、求職者の方々は現場は人手不足かどうか。
また、給与はどれくらいか、残業はあるのかについて気にされていることが多かったため、調査によって出された数字に注目して解説していきます。
- 1年間の採用率・離職率
- 職種・就業形態別離職率
- 従業員の過不足状況
- 賃金
- 労働日・労働時間等について
- 仕事についての考え方
- 働く上での悩み、不安、不満等について
- 直前職(介護関係の仕事)をやめた理由
令和4年度介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査 結果報告書|公益財団法人 介護労働安定センター
令和4年度介護労働実態調査 介護労働者の就業実態と就業意識調査 結果報告書|公益財団法人 介護労働安定センター
調査資料の内容を簡単にまとめました。
皆さんが気になる介護施設の実情を、介護士目線で説明します。
※採用率・離職率:1年間の採用率又は離職率は、令和3年9月30日現在の在籍者数に占める、令和3年10月1日~令和4年9月30日の1年間の採用者数・離職者数の割合。
※訪問介護員:訪問介護事業所で働き直接介護を行う者
※介護職員:介護保険の訪問介護以外の指定介護事業所で働き直接介護を行う者
1年間の採用率・離職率
訪問介護員、サービス提供責任者、介護職員の3職種を合計した際の採用率は16.0%、離職率は14.3%です。
全産業の採用率・離職率の平均離職率13.9%を0.4%上回った結果となります。
離職率は採用率を下回っており、平均離職率と比較すると若干高い数値となっていますが、採用率と離職率に大きな差は見られません。
離職者が出た際に人員の確保はできているものの、余剰での採用はしていないと読み取れるでしょう。
この統計は平成17年度より記録されており、記録当初は20.2%だった離職率は現在14.4%まで低下しています。
過去5年間は14%~15%を行き来しており、横這いの状態であると言えます。
就業形態別離職率
法人格別の離職率
法人格別の離職率では民間企業の離職率が高く16.7%、社会福祉協議会の離職率は低くなっており9.7%です。
事業所規模別の離職率
19人以下の事業所での介護職離職率は無期雇用で17%、有期雇用で19%と高くなっています。
一方で100人以上の事業所の介護職離職率は無期雇用で10.8%、有期雇用で17.1%と低くなっています。
雇用期間で比較してもそれぞれ無期雇用は約6%、有期雇用は約2%の差がついています。
介護施設では非常勤雇用の割合が高いことも影響していると考えられますが、有期雇用の場合、契約更新をせずに離職する人が一定数いる可能性が高いということが読み取れるでしょう。
介護事業開始後経過年数別の離職率
どの職種をみても3年未満が一番高く、年数が経過すると離職率は低くなっていきます。
介護サービス別の離職率
特定施設入居者生活介護の離職率が一番高く17.5%となっています。
一番低いのは介護老人保険施設で12.0%です。特定施設入居者生活介護とは主に有料老人ホームのことを指します。
また前年度から1.3%離職率が増加しています。
総括すると、新しく事業を開始した小規模企業での介護職は離職しやすい傾向にあると言えます。
実際、私がキャリアアドバイザーをしていたころも次のような話をよく伺いました。
- 新規オープン施設では仕事内容がマニュアル化されていない
- 介護を教えるリーダーポジションが居ない
- 利用者が少ないことによる急な仕事の休みが発生する
- 給与が支払われない
- すでに退職者がでてシフトが回らない
- 募集時の求人内容と業務内容も給与も違う。賞与が無いと言われた。
このような問題を抱えた結果転職を考えたという求職者も少なくありません。
有料老人ホームでの離職率が高い理由は仮説にはなりますが、施設によって介護度の高い方が多く入居されていることによる業務負担の大きさや、会社の方針と自身の介護感が合わない、給与が低いなど、複数の要因があるように思われます。
② 事業所規模別の離職率|令和4年度介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査 結果報告書|公益財団法人 介護労働安定センター(36ページ)
従業員の過不足状況
介護サ-ビスに従事する従業員(介護職・サービス提供責任者・看護職等)の過不足状況は、「やや不足」「不足」「大いに不足」を合計すると全体の66.3%が人手不足感を感じているようです。
「やや不足」と感じているのは 34.6%で「適当」と感じているのは33.3%であることからも、充分な環境で勤務していると感じている従業者の割合は低いことがわかります。
職種ごとでみるとやはり介護職員、訪問介護員が人手不足感を強く感じています。
2 従業員の過不足状況(問9)|令和4年度介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査 結果報告書|公益財団法人 介護労働安定センター(43ページ)
賃金
訪問介護員と介護職員とに分けて給与を比較します。
ここでの訪問介護員とは初任者研修以上の資格を取得していること、訪問介護事業所に就業している介護職という意味合いです。
一方で介護職員は訪問介護事業所以外の介護施設で就業しており、無資格者も含まれます。
介護職員が有資格者のみで運営されるサービスと、そうではないサービスによって平均給与は変化するのか比較してみましょう。
月給
訪問介護員で237,283円、介護職員で235,302円と大きな差はありません。
時給
訪問介護員で1,407円、介護職員で1,074円と300円強の差がついていることが分かります。
賞与
訪問介護員は477,654円、介護職員は585,209円と介護職員が高くなっています。
訪問介護員の場合は利用者の自宅に赴き生活援助や介護を行います。
一対一でのサービス提供となるため、何かあった時の責任やリスクを負う可能性が高いという理由から、月給や時給がその他介護職よりも高く設定されている求人が多いです。
また必ず介護職員初任者研修以上の資格を取得しているため、その他介護施設で勤務する無資格の介護職員より給与が高くなる傾向にあります。
(2)所定内賃金 |令和4年度介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査 結果報告書|公益財団法人 介護労働安定センター(96ページ)
(4)年収(月給の者・勤続年数 2 年以上) |令和4年度介護労働実態調査 事業所における介護労働実態調査 結果報告書|公益財団法人 介護労働安定センター(110ページ)
労働日・労働時間等について
労働日数
介護職員のほとんどが週5日の勤務をしています。
週5日と回答した訪問介護員は68.9%、介護職員は78.5%です。
週6日勤務している介護職も一定数おり、訪問介護員で11.3%、介護職員は4.4%となっています。
全体としては週5日勤務の介護職が大部分を占めてはいますが、就業先の雇用条件や利用者の希望や人手不足といったやむを得ない理由で週6日の就業となっている場合もあるでしょう。
Ⅱ 労働日・労働時間等について > 1 労働日数、労働時間等(問5)|令和4年度介護労働実態調査 介護労働者の就業実態と就業意識調査 結果報告書|公益財団法人 介護労働安定センター(22ページ)
表Ⅱ-1(1)② 1週間の労働日数(7職種就業形態別)(問5(1)①)|令和4年度介護労働実態調査 介護労働者の就業実態と就業意識調査 結果報告書|公益財団法人 介護労働安定センター(資料編-17)
労働時間
一週間の労働時間は「無期雇用職員で40時間以上50時間未満」が69.5%と最も高くなっています。
とはいえ、40時間以上50時間未満での就業割合が多いのは、サービス提供責任者や介護支援専門員で、どちらも75%を越えています。
これは配置人数が少なく設定されている職種であるという事情も関係していそうです。また、これら2職種は労働時間が50時間以上であると答えている割合も、それぞれ10.5%、6.0%でした。
介護職のみの労働時間は無期雇用か有期雇用かによってばらつきは見られますが、50時間を越える労働者(月で40時間を越える残業をする場合)の割合は多くないことが分かります。
次に詳しく説明をしますが、介護は時間で簡単に区切れない仕事も多いため、1日で30分程度の残業が発生する可能性はあると思っていた方がいいでしょう。
(2) 1週間の労働時間数|令和4年度介護労働実態調査 介護労働者の就業実態と就業意識調査 結果報告書|公益財団法人 介護労働安定センター(24ページ)
残業時間
訪問介護員は時間で区切られているサービスであるためか、残業なしと回答する方が69.9%でした。
介護職員でも56.5%が残業なしと回答しています。
残業があっても週で5時間未満と回答した方と併せれば83.1%まで登ります。
残業が多い仕事というイメージがある方は、そのイメージが払拭されるきっかけになるかもしれませんね。
障害者施設で勤務をしていた時の経験ですが、残業が発生する場合は突発的な場合が多いです。
例えば利用者からトイレの付き添いをお願いされる、送迎や通院が長引いてしまい他の職員のカバーをする必要があったなどがよくある理由だと思います。
また私の場合はどうしても定時退勤をしなくてはいけない場合は、予め周りの職員に伝えて協力して貰う場合もありました。
日中の仕事をスケジュール通りにこなしたり、一部の仕事を交代してもらったりすることで、記録や片づけをする時間をしっかりと取り、時間通りに引継ぎまで終わることができるような工夫もしていました。
(3) 1週間の残業時間数|令和4年度介護労働実態調査 介護労働者の就業実態と就業意識調査 結果報告書|公益財団法人 介護労働安定センター(24ページ)
仕事についての考え方
介護職を選んだ理由は、多い順に次の通りです。
- 1位
- 働きがいのある仕事だと思ったから
- 2位
- 資格・技能が活かせるから
- 3位
- 人や社会の役に立ちたいから
- 4位
- 今後もニーズが高まる仕事だから
- 5位
- 介護の知識や技術が見に付くから
給与面は理由として上位には上がらず、やりがいや、長く働いていくにあたって介護職を選択しているような回答がランクインしています。
残念ながら給与収入が多いことを理由としている回答は非常に少ないため、介護職の給与は高給与であるとはまだまだ言えないようです。
働く上での悩み、不安、不満等について
労働条件について
一番多い回答は「人手が足りない」で52.1%です。
次に「仕事内容のわりに賃金が低い」が41.4%になっています。
特に入所系の施設で就業している方の70.4%が人手不足を強く感じており、夜間や深夜帯の勤務に対する不安も同様にあるようです。
Ⅵ 働く上での悩み、不安、不満等について|令和4年度介護労働実態調査 介護労働者の就業実態と就業意識調査 結果報告書|公益財団法人 介護労働安定センター(61ページ、62ページ)
人間関係等について
一番多い回答は「部下の指導が難しい」で20.3%、次に「自分と合わない上司や同僚がいる」で20.2%となっています。
人間関係について悩みを感じていない人の割合は32.8%にとどまっており、7割近い方が、職場での人間関係等について、悩み、不安、不満等を感じているようです。
介護をするにあたって職員との連携やコミュニケーションは必ず求められるものであり、介護に対する意識や技術レベルの違いなどから「自分と合わない」と感じてしまう人が一定数いるのでしょう。
直前職(介護関係の仕事)をやめた理由
介護関係の仕事をやめた理由の1位から3位は次の通りです。
- 1位
- 職場の人間関係に問題があったため
- 2位
- 法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため
- 3位
- 他に良い仕事・職場があったため
(3) 直前職(介護関係の仕事)をやめた理由|令和4年度介護労働実態調査 介護労働者の就業実態と就業意識調査 結果報告書|公益財団法人 介護労働安定センター(79ページ)
働くうえでの悩みとして「自分と合わない上司や同僚がいる」の割合が多いこともあり、人間関係を理由に離職をしている人が多いのは納得の結果でしょう。
介護は働く人たちがお互いにフォローをしあいながら仕事をすることが非常に多いです。
そのため、同僚にコミュニケーションしづらい人がいれば、働くうえでかなりのストレスとなってしまうのでしょう。
同じ職場で続く人はどんな人?
介護労働実態調査を確認してきましたが、介護施設と介護職の現状のイメージは掴めましたか?
介護はなんとなく大変そうな仕事というイメージがあったと思いますが、介護業務の内容よりも一緒に働く人との関係性に悩んでいる人が多いことが分かりましたね。
では、どのような人が介護現場では求められているのでしょうか。
コミュニケーション能力がある
私の経験談ですが相手からの挨拶を待っている人は、積極的に仕事を行う印象はありませんでした。
ちょっとしたことでも、その都度「ありがとう」「すみません」と言える職員は、周りの職員からも慕われていることが多かったように思います。
報告・連絡・相談は簡潔に話すことが大切です。介護現場では限られた時間の中でスケジュールにそって利用者へのサービスが行われることが多いです。
手短に要点を伝えること、どの情報を報告するのかなどを、まずは自分の中で精査する力が求められます。
自分から発信する力がある
利用者や自分たちのために改善したいことがある、新しく取り組みたいことがあると声をあげられる人材は貴重です。
事の内容や人間関係に不安があってもそれを相談することはとても労力が必要だと思います。
しかし、自分たちが働く環境を改善するために、問題意識を持って取り組める方は上司や同僚から一目置かれる存在になります。
仕事を任せたい、困りごとを相談したいと思える介護士は、職場の中心人物として活躍が期待されます。
ストレス発散やアンガーマネジメントができる
介護の仕事をしていると、心身共に疲れることや理不尽な出来事に対してやりきれない気持ちになることもあります。
例えば、認知症の方への声掛けがうまくいかず、食事や入浴をなかなかしてもらえない、家族からのクレームを受けるなどが起こり得ます。
そんなときは、自分なりのストレス発散方法があると良いでしょう。
また利用者や同僚に対して「どうして分かってもらえないのか」というような気持ちを抱いたときは、アンガーマネジメントを実践してみてはいかがでしょうか?
コミュニケーションとは切っても切り離せない仕事だからこそ、自分の気持ちをコントロールできるスキルが高い方は長く働くことができるのでしょう。
※アンガーマネジメントとは、怒らないことを目指すのではなく、違いを受け入れ人間関係を良くする心理トレーニングです。
まとめ
今の職場を続ける?それとも転職?
最後になりますが、介護労働実態調査では勤務先に対する希望として、今の勤務先で働きたいと思っている方が58.2%と半数を越えています。
また、やりがいを持って働いている介護職が非常に多いという結果もでています。
現在の職場をそのまま続けるのか、それともキャリアアップや環境の変化を求めて転職をするのか、みなさんはどちらに近いでしょうか?
数字を元に介護の実態を解説してきましたが、現在の仕事や職場に満足がいっていない方は、心機一転、転職を考えてみるのも一つでしょう。
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